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全公法私法の泉fons omnis publici privatique iuris ― 木庭顕『新版 ローマ法案内』

【今日の言葉】

市民法における定義は総て危険である。
omnis definitio in iure civili periculosa est.
(原田慶吉『ローマ法』)

創造的であるためには、ローマの人々が何を問題としたのかというところに立ち返って考え直す以外にない。
(木庭顕『新版 ローマ法案内』)

【読書日記】

こんばんは。ともです。
今日は、木庭顕『新版 ローマ法案内』を読んだ若干の感想です。

尚、近時木庭先生の著書を使って遊んで参りましたページ単価の数量分析は、個人の楽しみとしては当然行ってみましたが、ここでは行いません。皆さま方でお楽しみください。

■改定方針

このブログをお読みの方ならば周知の通り、『新版 ローマ法案内』(以下、新版)は、2010年12月に初版が出された『ローマ法案内』(以下、旧版)のヴァージョンアップです。『ローマ法案内2.0』などと呼べば、表象文化論的には通りがいいのかもしれませんが、政治学的・法学的センスと知的水準を問われかねませんので、ここでは敢えて、政治・法を学ぶ者の矜持にかけて新版・旧版と呼んでおきます。

まずは新版と旧版の目次を比較すると、その改定方針の意図が透けて見えるはずですが、意外なことに章だては新旧ほぼ同一であり、唯一、旧版の6章(「ローマ法」伝播に関する簡単な注記)が削除され、新版では「補遺」の章に置き換わっています。ここでは、旧版の基本的構造は変更する必要がないという意思が示されているのです。

それもそのはずで、これまた周知の通り「本書はPOSS(筆者注『法存立の歴史的基盤』)の要約版という性格」(新版2頁)を持つことから、十分な分析・検討・研究を経て叙述された『法存立の歴史的基盤』の成果の骨子は変わらない、ということを示しています。

では何が変わったのか。

旧版と比較してかなり縮約された新版「はしがき」にその改定方針が記載されています。
すなわち「叙述を多少簡潔にするというもの」で「あった」と当初の意図が示された後に、逆接の接続詞「しかし」が続き、「結果」的に「基幹の部分の説明」を「全面的に入れ替え」したと吐露されているのです。

この「しかし」と「結果」という二つの単語に込められた、著者と編集者の想像を絶する「割の合わない」苦労を第三者が想像してみても始まらないので、以下、「基幹の部分」の新版の叙述を読んでみた若干の感想を記載します。

■感想その1~「政治」の定義がはっきりわかる!

新版のいちばんの目玉が、「政治」の定義が明快に示されているところではないかと思います。「第1章 歴史的前提」の「1-1 政治」は極めてクリアな説明で、しかも「自由」が社会の「指導的原理」と爽快に断言しています。言われてみれば、当たり前のことなのですが、私自身が「当然の前提は記載しない」「定義は記載しない」という悪しき民事法的思考に染まってしまったのか、新鮮な叙述に写ります。

この裏返しとして、「政治」の対抗的社会原理である「枝分節segmentation」についても明快な定義がなされています。当然のごとくマルセル・モース『贈与論』(新版9頁,註9)にも言及がありますが、ここまで丁寧な叙述がされていれば、「モースもローマ法を援用しているが違いが判らん」などという声はおそらく出てこないのではないかと思われます。

■感想その2~「ウェルギニア伝承」が解説されている!

新旧の比較において索引を比較するのも大変興味深いのですが、目を引くのは、旧版においては一切触れられることのなかった「ウェルギニア伝承Verginia exemplum」が新版には堂々と記載され(新版217頁)、本文においては、約8ページにわたりその内容と意義、占有原理の解説がなされていることです(新版「第2章民事法の原点」「2-3 占有」47頁以下)。

既に、木庭顕『法学再入門 秘密の扉―民事法篇』の読者であれば、「ぜんべいとオハナ」のお話がウェルギニア伝承のパロディであることにお気づきでしょうが、内容とその意義をこれだけ簡潔に記載したところに新版の意義があります。なぜなら、民事法の原点である「占有」概念の「設立先例exemplum iuridicum」がウェルギニア伝承そのものだからです。

歴史学徒ではない私などは、exemplum iuridicumを”判例”などと安易に言い換えてしまいたくなる欲望を抑えきれなくなるのですが、そこは学問的な厳格性を尊ぶ木庭先生のことですから、「本書では以上のような(筆者注:徹底したヴァリアントの偏差の分析)作業を一切省略してよくできた占有概念設立先例があるがごとくに叙述する」(新版49頁,註11)と注意書きすることを忘れません。

その意味で、『法存立の歴史的基盤』ひいては『秘密の扉』『民法の基礎』『公法の基礎』を読むうえで、まさに「案内」となる叙述に徹しているものと評価されます。特に、新版55頁「図1 占有/民事訴訟」の図解は極めて明快です。

■感想その3~bona fidesと所有権の社会構造がわかる!

図1以外にも新版では図表があと2つでてきます。「図2 bona fides」(新版95頁)と「図3 所有権(dominium)の躯体」(新版132頁)です。それぞれ直感的に各々の社会構造段階の違いが理解できるように大変よく工夫されています。

特に所有権の社会構造の図解が有益で、木庭先生の日本国憲法9条2項論を理解するためには、非常に有益な図解になっています。

■最後に

この後も、中高生を対象にした木庭先生の講義録が出版されるようですので、まだまだ楽しみなのですが、そういえば『政治の成立』にはドゥルーズの『差異と反復』への言及があり、最新の国家学会雑誌論考には「反復」の語もみられますので、どこかで木庭先生のドゥルーズ論を読んでみたいなあと思っています。興味を持たれた編集者の皆さまは是非ともご検討をよろしくお願いします。

あ、最後に。新版はコスパが圧倒的でお買い得ですよ。

では。

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コメント

木庭顕『新版ローマ法案内』に導かれてまいりました。
著作者の本は初めて読むのですが、大変難しくてよくわかりません。

特に「枝分節」と「分節」の違いを説明をしたp14の記述部分で、枝分節空間を都市政治的に制圧した空間=分節空間は、

「後者の場合、すべての費用果実系単位空間が並列的に結合していなければならない」(同頁14行目)

云々というのはどういう状態なのでしょうか?
もしよかったらご教示願えないでしょうか?

投稿: パンダさん | 2018年8月12日 (日) 12時07分

パンダさん
コメントを頂きありがとうございます。
気づくのが遅くなり申しわけございません。
早速ですがご質問への回答をします。

枝分節は、端的に反社会的勢力だと思ってください。
ヤクザのシノギって、ぶっちゃけ上下関係がありますよね。暴力と脅しを背景にカネを巻き上げる関係です。

対して、分節は純粋なビジネスの関係だと思ってください。それは、いわば商人間の信頼関係に基づく透明性の高い世界です。いいかえると、お互いに対等にビジネスを行っている世界です。そこには上下関係はなく、並列した対等の関係があります。

一方で、独立した商人であっても孤立していれば、商売は成り立たないですよね。そこには、通商がある訳です。それを、木庭顕は「並列的に結合」する、と表現してるのではないでしょうか。

こんな感じでいかがでしょうか?

投稿: とも | 2018年8月16日 (木) 23時03分

ともさん、ご返信ありがとうございます。

商人の喩はイメージ的にわかりやすいですね。
ともさんのアドバイスを元に最初のページから読み直してみると、著者は私たちが通俗的にイメージする「政治」や「交換(ѐchange)」の概念からしてちょっと違う定義を用いてあらためて驚きを感じています。

先に疑問を感じた「費用果実系単位の並列的結合」という言い回しも、ともさんの商人への言及や、脚注15)p10の「(贈与交換の)無媒介的作動」との対比を通じて理解しようと思うと何となくイメージしやすいですね。

木庭氏の著作には、「分節/枝分節」とか「透明な関係/不透明な関係」といった漠然的なイメージの対比で語られることが多いので、頭の悪い私にはすぐ???な状態になってしまうのですが、各人の選択を自覚的なものにするために、考えを論拠と結論に分節するという「特定の厳密な議論」の仕方を社会関係に内在させた関係・状態と理解すると、私的には読みやすそうです。

頑張って読みすすめてみます。

投稿: パンダさん | 2018年8月19日 (日) 08時23分

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