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ゴダールのオデュッセイア―ゴダール「さらば、愛の言葉よ」

【今日の言葉】

スペクタクルと統治の仕方の間には関係があるんだ。
(ゴダール インタビュー「シネマ、それは現実を忘れること」)

【読書日記】

きょうは、ゴダールの新作「さらば、愛の言葉よ」を観てきた感想を少し。

■シンプルな感想

まず、前評判の3D左右別向き場面は、純粋に面白かったです。
画面の「幽体離脱」のような感触で、「あぁ、こうなるのね」と感心しました。

ただ、目の悪い私にはこの3Dは大変疲れました。
焦点が合わない。
わざとぼやけた画面を入れる。
(これは笑うところなのか、と真剣に悩む。)

引用、誰だっけ?
(帰ってきてフローベールだと思い出す)

音楽ぶつぎり健在だな。
もうちょっとちゃんと聴いていたいのに。

などでしょうか。
だいたい1時間くらいなはずなのに、大変上映時間が長いと感じました。

シンプルな感想は以上の通りです。

■考えてみた感想

で、画面を観つつ、また
画面を観終わったのちに、いろいろと考えてみた感想は、

これって、オデュッセイアのパロディかもしれない。

というものです。

■犬、戦争、航海

まず犬。何故犬か?

ホメロス「オデュッセイア」では、アルゴスという老犬が出てきます。「オデュッセイア」では、乞食に扮装したオディッセウスを、人間は誰ひとり認識できなかったのに対して、この老犬アルゴスだけが、乞食の正体を見破ったのです。人間の認識能力の限界を示す「おはなし」として理解することも可能な場面です。

もし「オデュッセイア」だとすると、何故戦争の場面が繰り返し出てくるのかも理解できます。
オデュッセウスは、トロイヤ戦争から、延々航海をして帰ってきたからです。

だとすると、繰り返し登場する遊覧船もオデュッセウスの帰還を示唆しているのではないでしょうか。

■貞操と不倫

しかし、決定的な違いがあります。

オデュッセウスの妻ペネロペは、求婚者たちをずっとだましつつ貞操を守ってきたのに対し、ゴダールのヒロインは人妻で、不倫をしています。

ゴダールのレジュメによると、犬は、不倫のふたりのもとに落ち着くことになります。主人の帰りを待たずに、不倫の二人の側につく犬。

そして、ゴダールによると「かつての夫が全てを台無しにし」と、オデュッセウスが悪者になったかのような書き振りで物語が要約されています。

確かに、オデュッセウスは、求婚者たちに対して矢を射って「台無し」にしてしまいます。
しかしゴダールは、それを、戦争の悪とクロスオーバーするかのように、不倫の側に立ったシナリオを進めていくのです。

■西欧を始原からやり直すこと

ホメロスは、西欧の第一級の古典でした。
その古典をズラすことにより、西欧をはじめからやり直すこと。

そんなホメロスの書き換えをやっているかのように、この映画を観てしまうのはちょっと深読みのしすぎかもしれません。

ただ、ヒトラーへの参照において、それが西欧社会がその中から作り出したものである、という科白がでてくるところを考えると、案外、ゴダールは本気でホメロスの書き換えを考えているのかもしれない、と思えてくるのです。

「シネマ、それは現実の複製ではない、現実の忘却なんだ。しかしこの忘却を記録しておけば、思い出し、現実に到着できるかもしれない。」(ゴダール インタビュー「シネマ、それは現実を忘れること」)

不倫するペネロペと悪役のオデュッセウスから始まる社会というのはどんなものか全く想像がつきませんが、少なくとも、ゴダールの3Dという全く想像のつかなかったものを観てしまったからには、そんなものもあるのかもしれない、とつぶやくしかほかにないのかもしれません。

では。

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