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愉快な奇書―小宮正安「モーツァルトを『造った』男」

【今日の言葉】

不審そうな目でじろりと見られた。
(小宮正安「モーツァルトを『造った』男―ケッヘルと同時代のウィーン」)

【読書日記】

こんばんは。ともです。

今日の読書は、小宮正安「モーツァルトを『造った』男―ケッヘルと同時代のウィーン」。
モーツァルトの作品名の後ろに添えられているケッヘル番号の「ケッヘル」とは何者かを探った一冊です。

著者は横浜国立大学准教授。すでに「オペラ楽園紀行」「ヨハン・シュトラウス―ワルツ王と落日のウィーン」「ハプスブルク家の宮殿」などの著作があり、音楽好きであれば要チェックです。

昨日、本屋の一フロアを丹念に見渡し3冊ほど本狩りを終えて、そろそろ帰ろうかと家人に声をかけたところ、小宮准教授の新刊が出ている、との指摘に驚き引き返し、何度か通り過ぎた棚をよく見ると!ありました。

題名の「ケッヘル」と「華やかな題材」を得意とする小宮准教授の名前がぜんぜん結びつかず、すでに題名はチェックしていたものの素通りしてしまっていたのです。でも、よりによって何で「ケッヘル」なのでしょう。

■小宮正安「モーツァルトを『造った』男―ケッヘルと同時代のウィーン」

あとがきを読むと、ケッヘルに関する執筆のオファーは小宮准教授も「意外」で「モーツァルト専門家を称したわけでもないのに」と不思議だったと書かれています。私の素通りも許していただけるでしょうか。

とはいえ、これは謙遜に過ぎません。
中味を見ると、いやいや、どうして。こりゃ小宮准教授にしか書けませんぜ、という内容です。

モーツァルトに対するケッヘルの位置を「凡庸」と規定する内容は、映画「アマデウス」へのリファーは一応あるものの、近代小説の祖フローベルに寄り添う編集者マクシム・デュ・カンを描いた蓮實重彦「凡庸な芸術家の肖像―マクシム・デュ・カン論」が念頭に置かれているのは、ほぼ間違いないでしょう。

「ビーダーマイアー」「ディレッタント」などのタームで19世紀前半のウィーン文化と歴史、音楽の相互の影響干渉関係をさらっと描いてしまうには、ドイツ文化への深い素養、音楽への限りない情熱、いや、愛がないとまず無理です。それに加えて東大大学院を満期単位取得している小宮准教授が表象文化論的な「何にでも食いついてしまう志向」をスパイスとしてふりかけないと、出来上がろうはずがありません。

そういう意味で、著者とテーマがこれほどまでに幸福な出会いをしてしまっている本というものを久しぶりに拝見しました。

ぱっと見、著者名と題名だけでは「不審そうな目でじろり」と見て素通りしてしまいかねませんが、
皆様も是非、「愉快な奇書」(271頁あとがき)をどうぞ。幸福な読書体験がえられるはずです。

では。

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