« すべてが夢の中のよう-幸田文「きもの」 | トップページ | なぜあなたがここに―石川雅之「もやしもん」、小林有吾「水の森」 »

世界の驚愕すべき尋常ならざる美しさ―くらもちふさこ「駅から5分」「花に染む」

【今日の言葉】

「そして、その日こそ私たち誰の目にもはっきり、この世界の驚愕すべき尋常ならざる美しさが見てとれることだろう......」(ヘンリー・ミラー)。
(ジル・ドゥルーズ「スピノザ」)

【読書日記】

こんにちは。ともです。
今日の読書は、くらもちふさこの「駅から5分」「花に染む」です。

■くらもちふさこ「駅から5分」

そのむかし、くらもちふさこ「駅から5分」を書店の店頭で見かけたとき、平積みの量から売れてるようだとは薄々気づいたものの、表紙の絵柄が「いかにも」少女マンガらしくて「読まず嫌い」な本でした。(ケータイ小説原作のマンガかと間違えてました。)その後、よく行く大きな書店で「このマンガがすごい!2009」の特設コーナーが開設されており、この本が女性作家2位であることを知りました。しかも本が「売り切れ」だったのが妙に気になり、わざわざ近所の本屋で見つけて買いました。

で、読み始めても、普段読まないマンガの絵柄なのでどうも慣れなくて、しかも誰が主人公なのか全然良く分からなくて、「なんだかなあ」と思って、エピソードをひとつ、ふたつと読み進めていくうちに気づきました。

これは、絵柄に反して凄い前衛的です。

とにかく、時間感覚が不明になる位、フラッシュバックが多くてクラクラします。
絵は余白の使い方がとてもうまいです。さすが美大の日本画科。

■くらもちふさこの「花に染む」

そのくらもちふさこが「駅から5分」をいったん休載して、現在執筆中なのが「花に染む」です。
実は中心人物である男性が「駅から5分」と「花に染む」では一緒です。

なぜわざわざ「違う題名」で同一の登場人物を描き、同一の架空の町「花染町」を舞台にするのか、不思議に思いました。もしかしたらパラレルワールドでも描いて、さらに前衛性に磨きをかけるつもりなのか、とも邪推してみたのですが、どうも違うようです。

その謎が解けたのは、「駅から5分」のある女性キャラクターが「花に染む」にでてきた場面。
「花に染む」では中心人物の男性の幼馴染である「地味な女性」が語り手(主人公)となっています。彼女の物語が語られていく中、出会うはずがないように思われた「駅から5分」の「派手な」ある女性キャラクターと「花に染む」の「地味な」主人公が遭遇するのです。

ここで作者の意図が判然とします。
「駅から5分」はある「一つの時点」での「花染町」のさまざまなひとたちを描くことで、共時的なひとびとのつながりを描いていました。それがフラッシュバックが多くてクラクラするように感じた理由でした。一方「花に染む」は花染町とは別の場所の「過去」から、「駅から5分」の世界における「現在」に至る「タイムライン」に沿ってひとびとのつながりを通時的に描いていたのです。

「駅から5分」と「花に染む」という題名は、それぞれ「共時性」synchronicityと「通時性」diachronicityを表す象徴だったのです。別の物語として語る必然性があったことになります。

■世界の驚愕すべき尋常ならざる美しさ

では何故「駅から5分」と「花に染む」はこのような複雑な語りの構造をもっているのでしょうか。
このような語りの構造を通じてしか表現できないと作者が考えた何かがあると思われます。
私には、作者は「この世界」すなわち「現代」をリアルに描こうとしているように思われます。

風俗としての現代であれば、それこそ至る所にケータイ小説などの貧しい文学的現実があり、なにも、くらもちふさこがわざわざ語りの構造を駆使して描く必要はありません。

東日本大震災の後、見えてきた「現代」のリアルとは、日本で地震が起きれば、アメリカやヨーロッパでモノが作れなくなるという共時性。そして科学的な知見に関して、これまで別々の場所で別々に行われてきたことや出会うことのないように思われた人や知恵が遭遇しているという通時性であるように思われます。それをこれまでわれわれはグローバリゼーションなどと呼んできたのかもしれませんが、これほどまでにリアルなものとは捉えてはいなかったのではないでしょうか。

ドゥルーズがヘンリー・ミラーを引用していう「この世界の驚愕すべき尋常ならざる美しさ」。
「美しさ」というのが不適切であれば、「精密なつながり」とでも言い換えるべきもの。

くらもちふさこの「花に染む」はちょうど「駅から5分」の「現在」に追いついたところで震災後出版されました。「花に染む」と「駅から5分」の世界が交わった今、どのような展開になるのか注目されます。いまだ書かれざる物語。いま、まさに書かれようとしている物語。それはあまりにも「現代」と酷似しているように思われます。

では。

|

« すべてが夢の中のよう-幸田文「きもの」 | トップページ | なぜあなたがここに―石川雅之「もやしもん」、小林有吾「水の森」 »

アニメ・コミック」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/526219/51341487

この記事へのトラックバック一覧です: 世界の驚愕すべき尋常ならざる美しさ―くらもちふさこ「駅から5分」「花に染む」:

« すべてが夢の中のよう-幸田文「きもの」 | トップページ | なぜあなたがここに―石川雅之「もやしもん」、小林有吾「水の森」 »