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井口奈己とエリック・ロメールの差異と反復

【今日の言葉】

ユリは睫毛のかわいい女だ。それから目じりのシワもかわいい。なにせオレより二十歳年上なので、シワなんてものもあったのだ。(山崎ナオコーラ『人のセックスを笑うな』)

【読書日記】

こんにちは。ともです。

むかし大学の教養時代にフランス語の教科書として映画のシナリオが渡されました。

観たこともない映画で、俳優も知らない人たちでした。

授業はサボってばかりで、試験対策のために映画を見ました。

実は、それからず~っとエリック・ロメール監督『友だちの恋人』を日本映画にしたらどうなるかを折に触れて考えていました。その答えが、ついに井口奈己監督『人のセックスを笑うな』で見つかったのでした。

     エリック・ロメール『友だちの恋人』

今では近所のレンタル店にもこのDVDは置いてないので、定かではない記憶なのですが、セルジー・ポントワーズというパリ郊外の比較的新しい小都市でこの映画は始まります。二組のカップルが最後には入れ違いになる喜劇。筋立てはそれだけ。

映画音楽は一切なし。同時録音の周囲の声、小鳥のさえずり、役者たちのおしゃべり、風の音、木々の揺れる葉の音、がとても自然に流れて行きます。

役者も有名な俳優は誰一人なし。演技もほとんど素人のようです。

ただ、恋人たちが恋に向かっていく高揚、失望、喜びが、郊外の緑に溶け込むようにみずみずしく描かれています。エリック・ロメールの『満月の夜』『クレールの膝』『夏物語』『冬物語』『秋の恋』『パリのランデブー』『三重スパイ』のいずれにもない、この映画だけの特権です。

     井口奈己『人のセックスを笑うな』

エリック・ロメールの『友だちの恋人』では、買い物に出たヒロインが、友達の恋人に町で偶然何度も出会います。友達の恋人はヒロインをそこでウィンドサーフィンに誘います。それがきっかけで、二人は何度か一緒に出かけるようになり、親しくなっていきます。

井口奈己は、ロメールを意識的にか無意識的にか、反復するそぶりを見せます。

松山ケンイチ扮する「みるめ」は、偶然にも三回「ユリちゃん」こと永作博美に会います。一回目は夜明け前、二回目は昼、三回目は夜。三回目にみるめは、ユリちゃんを近所のファミレスに出没するロバを観に誘います。

そっかー!と、僕はここでひざをポン!と叩いて笑っちゃったのです。

僕はずっとこの十数年間、『友だちの恋人』を日本映画にした場合に、何とかウィンドサーフィンをするシチュエーションを考えてきたのですが、日本の郊外の小都市でそんなものできるわけがない!開き直って、日本の田舎なんだから、ファミレスにロバを出没させちゃえばいいんだあ、と井口奈己のいい度胸に感心したのでした。

そう思ってこの映画を観出すと、度胸据わって日本の田舎の風景を映し出していることが心地好く感じられてくるのです。一面の畑の中にぽつんとあるバス停。向こうに見渡せる山々。土手を走る自転車。駅前の小さなロータリー。

なんとエリック・ロメールのいつ果てるとも知れない役者の会話の洪水の代わりに、井口奈己はキスの雨まで降らせているではないですか!

フランスじゃなくても、ヌーベルヴァーグは撮れるんだよ。

とでも言われているようです。

恐るべし、井口奈己。

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